セッション1

セッション1概要

1. うつ[1]について
2. 治療原理の紹介
 ・あなたの人生の中でのストレスとなった出来事や喪失体験について
3. 活動記録の導入 (配布資料1)
 ・重要性と楽しさの評価
 ・活動記録表に記入するタイミング
4. 行動活性化の治療構造に関する重要なポイント

[1]訳者注:対象によって用語(うつ病、うつ、抑うつ等)を使い分けるとよい。

うつについて

 このプログラムはうつの治療に役立つようにデザインされています。うつは他のいくつかの症状と共に、抑うつ気分や以前楽しんでいた活動に対する興味・関心の低下を少なくとも2週間経験することと定義されています。多くの人が一生の間で少なくとも1つのうつ病エピソードを経験します。そして、年齢、文化、収入、教育および配偶者の有無を問わず、すべての人々に影響を及ぼす精神疾患です。

 うつは、主に楽観性やモチベーションの低下、自尊感情の低さ、集中力の低下、自傷行為、自殺念慮 や自殺企図 などへの影響があると言われています。うつに関連する医学的な問題には、心疾患、慢性的な痛み (慢性疼痛) 、2型糖尿病、薬物使用、倦怠感、そして栄養失調などがあります。うつを発症した人は周囲の人と関わらなくなったり、日常的な活動を行えなくなったりする可能性があります。そのことが、孤独感、人間関係の問題、仕事の満足度の低下や失業、そして学業不振につながることが考えられます。このようなうつの結果生じる問題を考えると、うつの鑑別と治療はとても重要であると言えます。


うつの症状には以下のような症状が含まれます:


1.ほとんど毎日の抑うつ気分(悲しみや疲労感を感じる)
2.日常生活における興味の減退
3.著しい体重減少,あるいは体重増加
4.食欲の減退または増加
5.不眠または過眠
6.動揺,またはいらいら感
7.疲労感,または気力の減退(倦怠感
8.無価値感,または過剰であるか不適切な罪責感
9.思考力や集中力の減退,または決断困難
10.落涙(他の人から見て涙を流しているように見える
11.絶望感
12.自殺念慮または(および)自殺企図

 ほとんどの人は時折、何らかの形で上記の症状を経験します。しかし、強い苦痛を感じている、または、日常生活の機能に多くの問題を抱えているときにのみうつの診断に至ります。人によっては、うつの原因として、愛する人の喪失、経済的困難、失業などといったうつの原因となり得るストレスとなった出来事が特定できます。しかしながら、多くの場合このようなうつの原因はわからず、前触れなく発症することもあります。うつの発症のきっかけとなった出来事に関わらず、うつによって引き起こされる特定の行動パターンが、孤独感、さみしさ、悲しみ、孤立、生きがいの喪失、そして(または)絶望といった感情を引き起こします。気持ちを楽にするための重要なポイントは、原因を明らかにすることではなく、抑うつ的な行動パターンを変化させることです。なぜなら、うつの原因を明らかにすることはほとんど不可能だからです。

行動活性化の治療原理の紹介

 この治療には、行動活性化と呼ばれるアプローチが含まれます。このアプローチによると、うつの無い生活のためのキーポイントは健康的な行動パターンを作り上げることです。健康的な行動パターンとは、あなたの人生に目的があるかのように、毎日、満足感を感じるような重要かつ(または)楽しい活動を行うことです。あなたが焦点を当てたい生活上の領域とそれらの領域における価値を特定できたら、あなたが最も重要だと思う価値に沿って生きることに役立てるために、日々の活動を絞り込んで活動計画を立てます。このプロセスはとても重要です。なぜなら、人生の中で価値のあることに関連する活動を達成すれば、あなたがポジティブで楽しい経験をする可能性が高くなり、人生に対する感じ方や考え方が改善されるからです。喜びや達成感をもたらすような、価値とやりがいのある活動を定期的に行っているのであれば、憂うつな気分や、絶望感を感じにくくなるのです。

 このマニュアルはあなたの思考、感情、そして全体的な生活の質を改善させる1つの方法として、行動を変化させることをターゲットにしています。多くのうつの人は疲れを感じ、さまざまな活動をするためのモチベーションが無い状態であり、もっとエネルギーがあってポジティブな考え方ができたならば、今ないがしろにしている活動や過去に達成できなかった活動ができるようになるだろうと考えています。この治療法では真逆のアプローチをとります。具体的には、エネルギー、モチベーション、ポジティブな考えや気持ちを高めるために、先に行動を変えるというアプローチをとります。しかし、このように行動の変化に焦点を当てているからといって、あなたの考えや気持ちを無視するわけではありません。私たちは、あなたが行動を変化させて、ポジティブな出来事をより経験するようになった後で、ネガティブな考えや気持ちが変わっていくということを言いたいのです。健康的な行動というのは生活の質の向上のための行動であり、あなたの人生の価値や目標の達成に向けた行動であると定義されています。健康的な行動とは対照的に、非健康的な行動(抑うつ行動)とは一般的に生活の質の向上には直接関係しておらず、その行動をとってもあなたの目標や価値の達成に近づかない行動です。

 ただし、あなたが活動的になれていたとしても、抑うつ状態が続いてしまうことがあるということに注意してください。こういったことは、あなたの価値に沿っていない活動や、誰かに強制されている活動に圧倒されているときに起こると考えられています。具体的には、あなたは仕事や家庭のことで忙しくしているかもしれませんが、それらは他人を助けることばかりを考えてしまっている活動かもしれません。他の人を助けることは重要ですが、あなた自身のしたいことや気持ちを完全に無視して、他の人のことばかり考えることは望ましくありません。他の人の要求ばかり考えてしまうと、空虚感や不満を感じて、そのような感情を持つこと自体に困惑したり罪悪感を抱いたりする可能性があります。したがって、あなたの人生の中で多くの活動に従事することだけでなく、ある程度の喜びと充実感をもたらす活動を行うことが大切です。

 ストレスを感じる出来事や喪失体験はどうでしょうか? 人生の中でストレスを感じる出来事や喪失の経験をした人は、しばしば長期間の抑うつ気分を経験します。何かとても悪い出来事を体験したときや大切な人を喪失したときは、人生が空虚で、意味のないようなもののように感じるでしょう。また、生きるための目的がほとんどなく、今までに経験した周りの人からのサポートや幸福感をすべて失ってしまったように感じることもあります。そのような考えや悪夢によって、体験した悪い出来事や愛する人が亡くなったことがひっきりなしに頭の中に浮かんでくるかもしれません。この治療では、あなたがどのようなことを経験し、その経験によってどのようなことを感じたのかをセラピストが知ることが重要になります。さらに重要なことは、そのような出来事が、現在あなたの人生に与えている影響をセラピストが理解することです。すべてのセッションで、私たちは、うつを発症するに至った原因である、あなたの人生で起こった出来事について時間をかけて話をします。しかし、この治療では、ただ何が起きたのかを話していただくだけでなく、より充実して有意義な生活を送るために役立つ戦略を一緒に試していきます。誰も過去に起こった出来事を変えることはできませんが、今日の行動によってより良い将来のための計画をすることはできます。人がストレスを感じる出来事や喪失を経験したときには、多くの人がその出来事に関する否定的な考えや感情がいつも頭に浮かぶようになります。そのことについて考えないようにしたり、つらいと感じないようにしたりすることが難しくなります。私たちは、そのような経験がどのように現在の行動に影響を与えているのか理解することの重要性を発見しました。多くの場合、喪失体験やストレスとなる出来事の後には、時間の過ごし方が変化し、それによって抑うつ的な行動パターンに陥ります。たとえば、夜に眠ることが難しいために、日中多くの時間を寝て過ごすとしましょう。もし日中に寝て過ごしていたら、日々の重要な活動が出来なかったり、家族や友人と交流するためのエネルギーや欲求がなくなってしまうかもしれません。この治療では、抑うつ症状を改善させるために、抑うつ症状を悪化させている可能性のある活動を特定し、その活動を修正したり、変えたりすることをお手伝いします。喪失体験やストレスとなる出来事の後は、前に進むためにこれからどのような人生を送りたいかを決めることに時間がかかりますが、この治療はそれに役立つようにデザインされています。この治療の目標は、あなたが最高の人生を送れるようにすることです。大変な道のりになるかもしれませんが、これからの治療過程を信頼することができれば、あなたの努力によって良い結果が生まれることに気づくでしょう。これから私たちは、あなたにとって心地の良いペースで治療を進めていきます。治療を行うに当たって、この方法で一緒に取り組んでいってよろしいでしょうか?

活動記録表

 この治療で重視していることは、健康的な活動を増やすことです。そのためには、自分自身が毎日どのようなことをしているのか知ることが大切です。もしかしたら自分がどのように過ごしているかなんとなく知っていると思うかもしれませんが、毎日何をしているのかについて、正確な情報がとても重要になります。ですので、1週間あなたの日々の活動をすべて記録していただきたいと思います。活動の記録は主に3つの理由から治療に役立ちます。第一に、活動の記録は、私たちがあなたの抑うつ的な行動と気分のパターンについて知ることに役立ちます。うつがどのように影響を与えているのかは人それぞれ違うので、うつがあなたの日常生活にどのように影響しているのかを知ることはお互いにとってとても重要です。また、そのようなパターンに気づくことによって、健康的な活動のレベルを上げるモチベーションになるかもしれません。第二に、活動の記録は、現在のあなたの活動レベルを測定する物差しとして役立ちます。また、治療方略を使った後に、現在のあなたの活動レベルと治療の後半の活動レベルを比較することもできます。最後に、毎日の生活習慣を細かく調べることによって、日々の生活に取り入れる健康的な活動のアイディアを得ることが出来るでしょう。現在の活動をモニタリングするために、睡眠やテレビ鑑賞など何でもないと思うような活動を含めたすべての活動の詳細な記録(1時間ごと)をつけていただきます。活動の記録のためには活動記録表を使用してください。1日当たり1枚の活動記録表を完成させてください。今の時点では、「いつも通り」活動してください。今週のホームワークはただ一つ、あなたの活動を可能な限り正確で綿密に記録していただくことです。

 楽しさと重要性の評価 活動を記録することができたら、次はその活動を楽しさと重要性の2つの観点から評価していただきます。楽しさの評価では、その活動をどれだけ楽しんでいるかについて考えます。他の言い方をすると、その活動をしているときにどれだけ楽しさや喜びを感じているかを考えてください。楽しさは0から10の10段階評価を使用します。全く楽しんでいない活動には0の評価をつけます。とても楽しい活動をしたときには10の評価をつけます。たとえば、ピクニックに行くことがとても楽しい活動だと考えた場合には10の評価になり、皿洗いが全く楽しくないと考えた場合には0の評価をつけます。

 重要性の評価では、あなたの人生でこの活動をすることが本当にどれほど重要であるかを考えてください。0から10の10段階評価でそれぞれの活動を評価してください。0は活動が全く重要でないことを意味し、10はその活動があなたの人生の中で最も重要であることを意味します。たとえば、仕事は家族を支える収入源なので、仕事に行くことは、おそらく人生の中でとても重要な活動です。その場合には仕事に10の評価をつけます。一方で、テレビを見ることはあなたの人生でそれほど重要ではない活動かもしれません。その場合は、テレビを見る活動に2などの低い評価をつけます。

 とても重要だけど楽しくない活動や、とても楽しいけれど重要ではない活動について考えてみましょう。たとえば、洗濯をすることはとても重要かもしれませんが、楽しくはないかもしれません。また、好きなテレビ番組を見ることはとても楽しいかもしれませんが、重要ではないかもしれません。一方で、楽しさと重要性がどちらも高いと評価される活動もあれば、楽しさと重要性のどちらも低いと評価される活動もあります。たとえば、家族と一緒に夕食を食べることがとても楽しくて非常に重要な場合には、楽しさも重要性もともに評価は9になるかもしれません。一方で、午後にベッドで横になっていることがあなたの人生にとって楽しいものでも、とても重要でもなければ、どちらの評価も0になるかもしれません。それぞれの活動の楽しさと重要性の評価に加えて、1日を通した全体の気分の評価も活動記録表の下部に書き込んでください。この評価も、0を最もネガティブな気分、10を最もポジティブな気分として評価してください。毎時間気分を評価する必要はありません。その日の全体を通した気分の評価を行うだけで結構です。

 いつ活動記録表に記入するのか? 日々のモニタリングをやり遂げるために、 1日を通して活動記録をつけるか、1日の終わりにまとめて1日の活動記録をつけるかを選んでください。あなたの好みに応じて選択していただいて結構です。ただし、数日後ではなくて、その日のうちに活動を記録することをお勧めします。月曜日にどのような活動をしたか、水曜日に思い出すことは難しいですよね。毎週のセッションで活動記録表の確認をしますので、毎セッション書き込んだ活動記録表を必ずお持ちください。

行動活性化の治療の構造に関する重要なポイント

 本日のセッションを終了する前に、この治療が構造化されたものであることを理解いただきたいと思います。この治療にはいくつかの段階が含まれています。うつは長期間の積み重ねによって引き起こされている問題なので、数日や1、2回の来院で克服することはできません。克服のためには多少の手間がかかりますし、この治療の中で一緒に復習する対処方略を練習することが非常に重要になります。もし初めて数回のセッションで即時的な効果を感じていたとしても、数回しかセッションに来なければ、長期的に考えるとこの方法はうつの治療の役には立たないでしょう。 癌治療の例で考えてみましょう。癌の治療では癌細胞を完全に取り除くためには定期的に化学療法に通うことが不可欠です。化学療法を始めて具合が良くなったと感じたとしても、化学療法の半分だけ、または1、2回だけ治療に通っただけでは、一時的に癌の進行を抑えたとしても、治療をすべて終えない限りは、また癌は進行するでしょう。また、治療を休んでしまって化学療法を行う間隔が数週間空いてしまった場合も、治療効果は低くなり、再発リスクが高まり、部分的な寛解となるでしょう。次の治療までの間に癌は進行してしまい、悪化してしまいます。癌治療とうつの治療は全然違うように見えるかもしれませんが、同様の構造を持っていて、一貫した治療の継続が必要です。このような理由から、すべてのセッションに来ようと努力することを約束してください。もちろん、予期していない出来事によってセッションに参加出来ない可能性があることは理解していますし、それは仕方のないことです。ですが、憂うつであったり、疲れていたり、やる気がないからといってセッションをお休みすることはお勧めしません。ほとんどの人は、セッション前に憂うつだったとしても、セッション後には気分がかなり良くなる傾向にあることに気づきます。憂うつなとき、疲れているとき、またはやる気のないときに、治療のセッションに参加するといったポジティブな一歩を踏み出すという考え方はこの治療の中や、うつを乗り越えるために大きな手助けになる方略です。

 治療に定期的に参加することに加えて、今から行うセッションではセッションの中でやっていただきたい課題と家で取り組んでいただく課題があります。ホームワークを定期的にやって来た人は最も生活の改善がみられたことからも、ホームワークをやってきていただくことはとても重要です。もし、ホームワークが難しかったり、多すぎたりする場合には、一緒に話し合い、あなたにとってホームワークがやりやすくなる方法を考えることができます。この治療プロセスが快適で役に立つと感じられるように一緒に進めていくことは、重要な課題を達成するためにとても重要なことです。


ホームワーク

1.活動記録表への記入

セッション2

セッション2概要

1. 活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
 ・ トラブルシューティング
2. 治療原理:復習
3. 人生の領域,価値、活動目録の作成 (配布資料2)

活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)

 本日のセッションはホームワークになっていた、先週からの活動記録表 (配布資料1) の確認と振り返りから始めたいと思います。あなたが行っている活動の種類について、その活動が楽しいのか、達成感があるのか、楽しさも達成感もあるのか、またはどちらもないのかについて気づくようにしましょう。うつの人は、楽しい活動に従事している時間がとても短い場合が多いです。また、自身にとって重要な活動すらも行わなくなることがしばしばあります。私たちはあなたの活動レベルと楽しくて重要な活動を行っている頻度について話しなくてはなりません。ですので、これからの複数のセッションに渡って、あなたの日々の活動を変化させることに焦点を当てていきますが、現時点で活動を変える必要はありません。その代わり、あなたの人生が日々どのようなものか、何をしているのか、そして、その活動によってあなたがどのような気分になるのか(例えば気分が良くなったり、悪くなったり)について注意を向けるようにしましょう。

 トラブルシューティング 活動記録表を完成させることが難しく感じる人がいるかもしれません。もし、先週の活動記録表を書き上げることが出来なかった場合には、まずその理由を知ることが大切です。理由の一つとして考えられるのは、あなたはすでに自分の時間の過ごし方をしっかりつかんでいて、活動を記録することは役に立たないと感じていることが考えられます。おそらく、あなたは先週何をしたかをたくさん思い出すことができていると思いますが、今では忘れてしまっている活動も数多くあるかもしれません。日々の活動を毎日紙に記録することは前回のセッションでお話しした抑うつのパターンを見つけるために、あなたにとっても、私にとっても役立ちます。多くの人は活動記録表で明らかになったパターンにとても驚いて、どのようにそのようなパターンによってより抑うつ的な気分になるのか、あるいは、よりポジティブな気分になるのかを本当に理解し始めます。この活動記録表をセッションに持ってくることで、あなたにセッション中にすべての情報を思い出していただかなくとも、正確にあなたがその時々の時間をどのように過ごしているのか知ることが出来るため、私たちの取り組みがより効率的になるのです。

 活動記録表を完成させることが難しい二つ目の理由として、その課題が難しすぎると感じている可能性が考えられます。その日のすべての活動を記入することは、課題の量がとても多いと感じるかもしれません。しかし、あなたが最終的にその課題から学べることを考えると価値のある努力だとわかるでしょう。この場合に課題を簡単にする方法の一つとして、記録を可能な限り短くするという方法があります(例えば、「昼食」、「子どもを学校に送る」、「夕食の準備」)。他の方法として、記録を1日の最後にまとめてつけることもできるでしょう。最後に、もしこの課題を少しでも行うことがとてつもなく難しいと感じる場合には、まず週2日または3日(平日と週末の両方を含めるようにしましょう)だけ取り組むことを検討してください。そして、徐々に週当たりの日数を増やしていきましょう。一度活動記録表に書き込む習慣がついたら、あまり負担を感じなくなるでしょう。書くことや読むことに難しさを抱えている場合にもこの課題を難しいと感じる可能性があります。この場合には、読み書きを必要としない活動記録表(配布資料1(補助))を使用していただくことが可能です。

 もし、過去1週間の間で一度も活動記録表を書き上げることが出来なかった場合、セッションの直前やセッション中に1週間すべてのことを思い出そうとすることはお勧めしません。治療に必要とされる詳細な出来事について思い出すのはとても難しいですし、多くの情報が抜け落ちてしまっているので、思い出していただいた情報から一貫した活動のパターンを見出すことは困難だからです。1週間すべてを思い出そうとするのではなく、このセラピーの間に昨日や一昨日の記録を書き上げてみましょう。おそらく、今日から1日や2日前までのことであればほとんどの活動を思い出すことが出来るでしょう。1日や2日分の活動の記録に過ぎないと思うかもしれませんが、そこが出発点になります。それによって、私たちは一緒に行動パターンを探し始めることが出来ます。次の週に毎日活動記録表に記入することで、前進する可能性が高まるのです。


治療原理:復習

セッション1の内容を利用して,必要に応じて治療原理を復習しましょう。


人生の領域,価値,活動 (配布資料2)

人生の領域 行動活性化の重要なステップの中に,あなたにとって最も重要な人生の領域を考えることがあります。下記の領域についてそれぞれ考えてみて下さい。

1. 人間関係
この人生の領域は家族、友人、そして/または恋人(例えば、配偶者、ボーイフレンド、ガールフレンド)を含む人生の部分を指します。
2. 教育/キャリア
この人生の領域は教育やキャリア開発のために費やす時間といった領域を指します。この領域には大学や専門学校などの公式な教育や、特定のテーマに関する読書といった非公式のものも含まれます。また、現在の仕事を行うことや新しい仕事を探すことも含みます。
3. レクリエーション活動/趣味
あなたが楽しみやリラックスした気分を感じられる余暇の時間といった領域を指します。また、ボランティア活動といった、ほかの人のために使う時間もここに含めることができるでしょう。
4. 心身の健康/スピリチュアリティ[2]
この人生の領域は身体的、精神的な健康および宗教/スピリチュアルな領域を指します。
5. 日常的な責務
この人生の領域は周囲の人に対する責任や義務を指します。

[2]訳者注:世界保健機構が定めている健康の定義には心身の健康だけなく,社会的な健康やスピリチュアルな健康も含まれている。そのため,人生の領域/価値/活動の中にもスピリチュアリティを含めている。



価値 それぞれの領域について考えたら、次はその領域におけるあなたの価値について明らかにする段階に入っていきます。 価値とは特定の生き方に関する理想、本質、強い信念を指します。 他の言い方をすると、それぞれの人生の領域の中であなたにとって最も大切なことは何でしょうか?それぞれの領域でどのようになろうと努力していますか?その領域であなたにとって大切な“本質”とはなんでしょうか?価値とはその人生の領域であなたにとってとても重要なものなのです。あなたがこれから見極めていく価値というのはとても個人的なもので、あなたの周りの人や社会一般的なほかの人たちの価値である必要はないことに注意してください。


活動 このセッションの目標はそれぞれの人生の領域の中から核となる価値を見つけ、それを活動に落とし込んでいくことです。人生の領域とはあなたの人生の大切な部分、価値とはそれらの領域であなたがどのように生きたいのか、そして活動は価値に沿って生きるために実際にできることを指します。自分自身の価値についてより深く知り、活動を選ぶ際の指針としてその価値を使うことがこの治療法のポイントです。ただし、あなたの価値に沿って生活するのに役立つ活動がなければ、価値はただの言葉やアイディアで現実ではないのです。付録1で人生の領域、価値、活動の例を見てみましょう。


 人生の領域、価値、活動目録はあなたが重要だと考える人生の領域における価値を現実にするために役立ちます。それぞれの人生の領域には、価値と活動を書くスペースに空欄があります (それぞれの人生の領域にさらに価値や活動を加えたい場合には、シートの追加が可能です) 。それぞれの活動は明らかになったあなたの価値に沿って行われているものである必要があります。例えば、もし「良い夫/妻であること」があなたの価値であるならば、良い夫/妻であることと一致していると思う活動をいくつか書きだしましょう。例えば、夫/妻と週に1回デートを計画する、夫/妻の苦手な家事の手助けをするなどの活動が考えられます。活動を選択するときに、その活動が次の2つの特徴を持っていることが大切です。その特徴とは、①観察可能な活動であることと、②測定可能な活動であることです。つまり、「気分を良くする」というのはこのプログラムの中では適切な活動ではなく、「週2回母親と夕食を食べる」とするのが適切です。後者の活動は、母親と週に2回会うという点で、観察可能で測定可能です。また、活動は細分化する必要があります。例えば、自転車でサイクリングに行くという活動を選んだ場合には、そこに至るまでにいくつかの中間のステップが必要になります。その中間のステップには、①地下から自転車をもって上がる②タイヤの空気を確認する③空気入れを見つけるなどが含まれます。ですので、自転車でサイクリングに行くという活動の初めのステップとして、まずは自転車を整備することが含まれ、後の週に実際に自転車に乗る活動が含まれます。活動を可能な限り小さなステップに分けることで達成がとても簡単になります。したがって、これらの3つの条件(観察可能、測定可能、可能な限り小さなステップに分ける)が満たされている場合に、達成可能な活動を見極めることが出来たといえるでしょう。

 メリットを得るまでに時間がかかったり、メリットが不確かであったりするようなとても難しい活動を選びたくなってしまうことも時々あります。例えば、大学の学位取得は達成に時間のかかる長期的な目標です。こうしたタイプの目標の設定は大切ですが、より重要なことはそのような長期的な目標を達成するために必要で、やりがいのある活動を明確にすることです。そのような活動には、興味のあるテーマについて勉強する、授業で学んだことについて話し合うといった、目標に近づくための活動で、重要であり、そして (また) 楽しい日常的な活動が含まれます。ですので、長期的な難しい目標を達成するためには細かいステップに分けて異なる難易度の活動を選択する必要があります。初めに成功する可能性を高めてこのプログラムをはじめてもらうために、選択する活動の一部はすでに定期的に行っているものにして、その活動の頻度や期間を増やすようにしましょう(選択しやすくするために活動記録表を見てみましょう)。では、一緒に配布資料を完成させて、ホームワークのために追加と修正を続けてください。


ホームワーク

1. 活動記録表の記入 (配布資料1)
2. 人生の領域,価値,活動目録の確認と修正を続けること (配布資料2)
3. 付録1の振り返り:人生の領域と価値から活動への移行

セッション3

セッション3概要

1. 活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 人生の領域,価値,活動目録:ホームワークの確認 (配布資料2)
3. 活動の選択と順位づけ (配布資料3)

活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)

 本日のセッションはホームワークになっていた、先週からの活動記録表 (配布資料1) の確認と振り返りから始めたいと思います。あなたが行っている活動の種類、その活動が楽しいのか、重要なのか、楽しくて重要でもあるのか、またはどちらもないのかについて気づくようにしましょう。うつの人は、楽しい活動に従事している時間がとても短い場合が多いです。また、自身にとって重要な活動すらも行わなくなり、楽しくも重要でもない活動を長時間して1日を過ごすことがしばしばあります。この場合には、楽しさや重要性の評価が高い活動を見つけることが難しいでしょう。その一方で、うつの人の中には、1週間の中で多くの重要な活動をしていても、楽しい活動はほとんど行っていない人がいます。このような人は多くの時間を仕事に費やしたり、他人の世話をしたりしていて、セルフケアや楽しい活動をする時間のほとんどを削って様々な義務を果たしています。うつを罹った多くの人にとって、重要な活動は楽しいものではないのです。あなたの活動はいかがでしょうか?どのくらいの頻度で楽しい活動や重要な活動を行っているでしょうか?これからの複数のセッションに渡って、あなたの日々の活動を変化させることに焦点を当てていきます。私たちはすでに人生の様々な領域において価値や活動を特定し始めていますが、現時点でなにか活動を変える必要はありません。代わりに、あなたの人生が日々どのようなものか、何をしているのか、そして、その活動によってあなたがどのような気分になるのか(例えば気分が良くなったり、悪くなったり)について注意を向けるようにしてください。また、時間と共に、このように活動を記録することが簡単になってくることに気づくかもしれません。

人生の領域,価値,活動目録:ホームワークの確認 (配布資料2)

 前回のセッションでは人生の領域、価値、そして活動について学んでいただきました。例えば、人生の領域が「教育/キャリア」で関連する価値が「大学に入学する」であれば、大学を見つける、大学入学カウンセラー [3]と話をする、履修登録をするなどの具体的な活動が含まれます。人生の領域が「家族関係」で価値が「ある家族メンバーとより近い関係を築く」という例を考えると、具体的な活動として、毎週土曜日に一緒に夕食を食べる、週2回電話で話をする、ベビーシッターなどのサポートを受けるなどが考えられます。1つの特定の人生の領域や価値に向けて活動を行うことは満足感がありますが、うつは人生の一側面によって引き起こされるわけではないため、幅広い人生の領域にわたって活動を選択することが重要です。例えば、あるうつの患者がもしある職にさえつけたら、もう抑うつ的になることはないだろうと考えているとします。その結果、その職を得るためだけにすべての活動を費やすことになります。この状況において、仕事に関することに取り組むことは確かに役立つでしょうが、他の人生の領域に関する活動に取り組むことも同様に重要なのです。充実した人生を送るというのは、自分の望む職を得ることや、望む体重になること、ある特定の1人とだけ一緒にいること、望むだけのお金を得ることではないのです。人生の一側面にのみ集中してしまうことで、他の領域でポジティブな経験をしたり、満足感を得たりする機会を制限することになります。特にあなたが計画している目標を達成するのに長期間要したり、極端に難しかったりする場合には、結局はうつ症状を悪化させてしまうかもしれません。最後に、特に活動記録表の中で頻度が低い活動の種類に重点をおいて、計画に「楽しい」活動と「重要な」活動がいずれも含まれていることを確認しましょう。治療期間を通して、それぞれの人生の領域における価値を念頭において、その価値に沿った新しい活動を加えるようにしましょう。

[3]訳者注:日本にはenrollment counselorに相当する職業はないが,新入生の勧誘,入学手続きのサポートなどを行う職である。

活動の選択と順位づけ (配布資料3)

 ここまでで、人生の領域におけるそれぞれの価値に沿った、多くの活動を特定してきているでしょう。まず初めに、本日はその中から15種類の活動を取り上げます。活動を選択したときのように、その活動を配布資料 3 (活動の選択と順位づけ) の左の列に書き加えましょう。活動は、観察可能、測定可能であり、最も細分化されたもので、人生の領域、価値、活動目録 (配布資料 2) で評価した価値と直接関連している必要があることに注意してください。あなたの活動があなたの価値と関連しているほど、活動を楽しく有意義なものとして体験する可能性が高くなり、自分が生きたいように人生を送っていると感じることでしょう。あなたがより充実した人生を送っていると感じたり、人生がより有意義だと感じたりすることがないような活動に従事する必要はないので、先ほどお話したことを注意することはとても重要なのです。配布資料 3に15種類の活動を記入することができたら、配布資料3の右側の列に1 (達成が最も簡単) から15 (達成が最も難しい) までの順位づけをしましょう。順位づけを行う方法の一つとして、まず最も簡単な活動を見つけて1を記入し、そして最も難しい活動を見つけて15を記入します。そこから、ほかの活動の順位づけも行います。活動計画の時には、まず最も簡単な活動から始め、徐々に難しい活動に取り組んでいきます。ですが、今週はどの活動も始める必要はありません。次のセッションで配布資料 3 のリストをもう一度見直してから活動を開始します。


ホームワーク

1. 活動記録 (配布資料1)
2. 人生の領域,価値,活動目録の確認と修正を続けること(配布資料2)
3. 活動の選択と順位づけの確認と修正

セッション4

セッション4概要

1. 活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)

本日のセッションはホームワークになっていた、先週からの活動記録表 (配布資料1) の確認と振り返りから始めたいと思います。あなたが行っている活動の種類、その活動が楽しいのか、達成感があるのか、楽しさも達成感もあるのか、またはどちらもないのかについて気づくようにしましょう。あなたの現在の活動レベルや楽しい活動や重要な活動を行っている頻度について、少し時間を取って一緒に考えて、話してみましょう。この時点では、もしかしたら重要な活動や楽しい活動がほとんどない人生の領域について考えているかもしれません。このような情報は、活動の選択や活動計画に役立ちます。これまで練習をしてきたので、このように活動を記録することが簡単になっていることに気づくかもしれません。もし簡単になってきていない場合や、難しくなっている場合には、課題を簡単にするための方法を一緒に考えましょう [4]

[4]訳者注: 活動記録を簡単にするための方法はセッション2のトラブルシューティングの箇所を参照。

活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

 15種類の活動を書き出すことができたら、その活動をどのように日常生活に組み込むか、そして進捗をどのようにモニタリングするか計画を立てる必要があります。新しい活動の計画には来週分の活動記録表を使用すると役立つでしょう。何種類の活動を選択するかを決めるためにはあなたの意見がとても重要です。また、無理のない程度に自分自身に挑戦することが大切です。最も簡単なアプローチとして、一般的には1から3種類の最も簡単な活動からはじめます。まずは、来週分の活動を選ぶところから始めましょう。つぎに、新しい活動記録表に、選択した活動を取り組む予定の時間枠に入れていきます。例えば、もしあなたの選択した活動が「娘と遊ぶ」ことであれば、配布資料1の月曜日の午前11時、水曜日の午前10時、木曜日の午前9時に書き込みます。

 その活動を行う準備ができているのか、そして活動を行う際の障壁について考えてみましょう。もし、まだ準備ができていないのであれば、来週まで待ってみましょう。もしその活動を達成するにあたって障壁があるのであれば、その障壁を乗り越えるためにまず取るべきステップについて一緒に話し合う必要があります。以前のセッション (セッション2) で活動を可能な限り細かいステップに分けましょうという話をしたのは覚えていますか?もし活動を達成するのが難しいと感じた場合には、本当にその活動を十分に細かいステップに分けることができているか考えてみると良いでしょう。例えば、もしあなたの活動が1週間に2回ジムに行くことであれば、まずジムに着ていく服を購入し、ジムを探し、ジムに一緒に行く人を見つける、または送り迎えをお願いする必要があるでしょう。この場合には、「ジムに行くこと」という活動は十分に細かくなっていない可能性があります。配布資料 22(人生の領域、価値、活動目録) に障壁を乗り越えるための新しい活動を追加する必要があるでしょう。この治療の大切なポイントは、それぞれの活動を行う具体的な日時を設定することです。この手続きは、選択した活動をあなたのスケジュールに入れることができるのか真剣に考えることを要します。それによって、活動が達成しやすくなるのです。

 来週はいつも通りに毎日活動記録表を書いてきてください。しかし今回は、もし計画した活動を達成した場合には、その活動に丸を付けてください。その時にも楽しさと重要性の評価は忘れずに行うようにしましょう。楽しさと重要性の評価は、あなたが考えていたよりもその活動が楽しいのか楽しくないのか、または重要なのか重要でないのか評価するために大切です。もし計画した時間に活動が出来なかった場合には、書き込んでいた活動の上に斜線をひき (消さないようにしましょう) 、その時間に実際に行っていた活動を記入します。もし可能であれば、その週のほかの日 (またはその日中) にその活動を再度計画してみて下さい。もし達成出来たら、忘れずにその活動に丸をしてください。いつも通り次のセッションでもあなたの活動記録表を振り返りますが、次回はあなたの計画した丸のついている活動を振り返り、その活動がどれくらい楽しく、重要であったか、そして活動を達成するにあたって何か問題があったか確認します。何か問題に直面したとしても、一緒に解決方法を考えることができます。

 活動を達成し始めたら、同時にあなたが人生の領域の中で重要だと思う価値に向かって進んでいて、より充実した生活を送り、落ち込んだ気分 (抑うつ気分) を和らげることができるのです。価値を達成できたかどうかに注目しすぎるのではなく、価値に関連した日々の活動を達成することができたのかに注目することが大切です。多くの価値の達成のためには、自分の価値に沿って生きるための生涯にわたる努力 (例えば、よい親であること) が必要となります。このような理由から、価値というのはこのプロセスの目標ではなく、私たちがどのように人生を送りたいのか、そして私たちの価値に向かって進んでいくための活動を選択する情報を与えてくれる、このプロセスの道標となるものなのです。


ホームワーク

1.来週分の活動計画の書かれた活動記録 (配布資料1)

セッション5

セッション5概要

1. 活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 協定書 (配布資料4)
3. 来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)
4. 治療の終結に向けた準備

活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)

 本日のセッションは先週の活動計画が書かれた7枚の活動記録表の振り返りから始めたいと思います。計画していた活動はどれだけ達成することが出来ましたか?達成できた活動はどれくらい簡単、または難しかったですか?達成した後にその活動はどれくらい楽しく、重要と感じましたか?その活動を達成したことについて、どのように感じましたか?達成した活動を継続して行いたいですか?または、次の週また違う活動を選択したいでしょうか?活動的になればなるほど気分が良くなることに気づきましたか?もしそうだとすれば、それはとても良い進歩だといえるでしょう。

 計画していたけれど、達成できなかった活動はありますか?もし、達成できなかった活動があった場合には、理由を考えてみましょう。その活動をしても面白さや重要性を感じなかったからでしょうか?その場合には、1つの方法として、代わりにほかの活動を選ぶことができます。もしその活動が継続して挑戦したいものであれば、いくつか考えなければならないことがあります。その活動はあなたがもともと考えていたよりも達成が難しいものでしたか?そうであれば、前のセッションでもお話ししたように、その活動をより小さなステップに分けるために話し合うことができます。または、時間がなくて、その活動ができなかったと感じているかもしれません。そうであれば、活動記録表を見返してあなたのスケジュールに新しい活動を入れられる方法を考える必要があります。同時に、より価値のある新しい活動を行う時間を捻出するために、現在行っている自分にとって価値の低い活動を行っている時間を減らすための戦略を真剣に考える必要があります。この作業には、あなたの時間に厳格な境界を作るという難しい課題が含まれるかもしれません。その場合には、一緒に話し合って、境界を設定し、自分のための時間を取り戻すのに役立ついくつかの活動を計画することができます。日常生活のルーティーンにこのような変化を起こすことは難しいですが、この治療の中で計画を立ててモニタリングをすることは、満足しない活動を減らしたり楽しくて重要な新しい活動を増やしたりすることに役立つのです。

協定書 (配布資料4)

 健康的な活動をサポートする人がいることによってうつを克服する可能性は大幅に高まります。家族や友達は、私たちの人生の中でとても大きなサポートをしてくれますが、時に家族や友人はあなたの健康的な活動よりも、抑うつ的な行動に目が行きがちです。また、手助けをしたいと思っていても、その方法が分からなかったり、良かれと思っても実際には助けにならない場合があります。例えば、友達や家族はあなたがつらい時期を過ごしているので、あなたのしなければならないことを肩代わりしようとしたり、逆にまだ準備のできていないことをするようにうるさく言ったり押し付けたりすることがあります。どちらの場合でも、手助けをしようとした人はあなたのことを助けたいのですが、助けにはなっていません。

 協定を結ぶことは、手助けをしてくれる人たちにあなたが必要とする方法で健康的な活動を手助けするように頼むことに役立ちます。あなたの必要な助けを得るために、 配布資料 3の中から誰かの助けによって達成できそうな活動を特定するところから、、配布資料 4 (協定書)のワークを始めましょう。それが終わったら、サポートしてくれる人を3名と、その人たちに助けてもらう具体的な方法を考えましょう。例えば、車を持っていないので1週間に1回食料品の買い出しに行くのが難しいとしましょう。この場合には、「食料品の買い出し」とお店までの送り迎えが可能な人をリストに書き込みましょう。それに加えて、食料品の買い出しはとてもつまらないかもしれません。その時には、食料品の買い出しがもっと楽しくなるように一緒に行ってくれる人を書き加えることもできます。このような場合には、お店までの送り迎えをしてくれる人2名と一緒に買い物に行ってくれる人1名の合計3名の名前を最終的に書いている可能性も考えられます。活動を選択することができたら、1名以上の助けてくれる人を見つけ、それぞれの人がどのように助けてくれるか具体的に説明します。そして、次のステップは、それぞれの人に何を達成しようとしていて具体的にどのように助けてほしいかを伝えます。ほかの人を巻き込むことによって、あなたの人間関係がより強固なものになります。今行っていることはすべて、あなたの日々の気分に良い影響を与えることでしょう。サポートをお願いする人に説明するときには、実際の協定書を見せてもいいですし、サポートをお願いしたい人に、活動を達成するために具体的にどのように手助けをしてほしいかを伝えるだけでも構いません。

 協定書を使うときに重要なことは、周囲の人に依存しようとしないことです。これは、特にサポートネットワークの中にあまり信用できない人がいる場合には重要になります。協定書を使って楽しいことや重要なことを行う手段を補強することはできますが、ほかの人に完全に依存してはいけないのです。協定書を書き上げるにあたって、誰かに依存することなくほかの人からサポートを得られる方法について一緒に考えていきましょう。

来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

 このセッションで話したことに基づいて、来週の新しい活動計画を立てましょう。もし可能であれば、来週分には先週達成した活動に1つ以上の新しい活動を加えることに挑戦してみましょう。

治療の終結に向けた準備 [5]

 私たちはこの治療を通して素晴らしい仕事を成し遂げてきました。そして,あなたは本当に多くのことを達成しましたね。あなたの活動記録表 (配布資料 1) を治療の1週目から見返して,治療の最終週の活動計画の書かれた活動記録表 (配布資料 1) と見比べてみるといかがでしょうか?現在の行動パターンを見分けることも大切ですが,治療開始時のパターンも把握しておくことで,将来どのパターンに注目すべきか知る役に立つでしょう。

[5]訳者注:原版のマニュアルでは全10セッションで構成されているが、セッション6以降は、1~5セッションで扱われている要素を繰り返す構成になっている。日本語版のマニュアルでは繰り返しのセッションは省略し、セッション5にセッション10+にあるセクションを追加している。

 また抑うつ気分を感じたときに、気分の改善や健康的に生きるために役立つスキルを沢山学びました。特にこれからの数週間の間は、モニタリングと計画のために3種類のフォームを継続して使用することを強くお勧めします。場合によっては、プログラムの内容の復習や自分で実践する際に難しさを抱えている場合の問題解決のためにブースターセッションに参加されることが有用かもしれません [6] 。モニタリングや計画するためのフォームを使うことなしに、日常的にあなたの持っている価値に沿って生きていることが出来ていることに徐々に気づくかもしれません。しかしながら、憂うつな気分が戻ってきたら、再度このマニュアルを確認し、ここで学んだスキルをすべてもう一度練習することをお勧めします。

[6]訳者注:ブースターセッションを実施する場合は、その意味するところを解説する。ブースターセッションを実施しない場合は削除する。

 もちろん、うつの時の気分が戻ってくる可能性はありますが、健康的で、有意義で、充実した生活を送ると抑うつ気分が持続する可能性は低くなることを覚えておいてください。過去に何が起こったとしても、最善の環境を整えるために、私たちの生活を変化させ、目的や意義であなたの生活を満たすための活動に時間を費やすことが出来るのです。

セッション6以降および
ブースターセッションについて

BATD-R 日本語翻訳版では、原版では10セッション構成のものを5セッション構成にしており、セッション10の「終結に向けた準備」はセッション5に組み込まれています。セッション6以降は、1~5セッションで扱われている要素を繰り返す構成になっています。以下では原版のセッション6以降の概要およびブースターセッションについて述べます。

セッション6概要

1. 活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 協定書:ホームワークの確認 (配布資料4)
3. 来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

セッション7概要

1. 活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 人生の領域,価値,活動目録:概念の確認と修正 (配布資料2)
3. 来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

セッション8概要

1. 活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 活動の選択と順位づけ:概念の確認と修正 (配布資料3)
3. 来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

セッション9概要

1. 活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 協定書:概念の確認と修正 (配布資料4)
3. 来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)

セッション10概要

1. 活動計画の書かれた活動記録:ホームワークの確認 (配布資料1)
2. 来週分の活動モニタリングと活動計画 (配布資料1)
3. 治療の終結に向けた準備

ブースターセッション

BATDマニュアルでは、ブースターセッションの内容についての指示はありません。必要に応じてブースターセッションを設け、資料を一緒に確認したり、プログラムで学んだことを一人で行っている中で困ったことがあれば、それを解決したりすることが役に立つかもしれません。